愛犬のマーキングは自然な行為ですが、マーキングがひどい犬の場合、頭を悩ませる飼い主さんも少なくないのではないでしょうか。特に去勢や避妊をしていない犬の飼い主さんからは、多くの悩み相談があります。
お散歩中に、他人の敷地内や家の前、公共の場である公園や道路でマーキングしてしまうとトラブルになることもあり、室外でのオシッコをやめさせたいと思っている人も多いでしょう。
マーキングを中心にトレーニングは基本的に子犬のうちから行うのが理想ですが、成犬になってからでも対処は可能です。愛犬がなぜマーキングをするのか理由を知ることが、マーキングをやめさせるための重要なポイントになります。
愛犬の気持ちや心理に基づいて、マーキング対策を行いましょう。
今回は、獣医師監修のもと、犬がマーキング行為をする理由ややめさせる方法、マナーについて解説します。

マーキングとは何か?
そもそも、愛犬のマーキングは単なる排泄行為ではないということを最初に知っておく必要があります。ここでは、犬のマーキングの直し方の前提として重要となるマーキングの基本情報について説明させていただきます。

マーキングとは
マーキングとは、犬が電柱や木の幹、家具などあちこちに自分のおしっこを頻繁に少量排泄することを指し、オス犬だけでなくメス犬にも見られる本能的な行為です。なお、去勢や避妊手術をしている犬であってもマーキングすることがあります。
膀胱におしっこが溜まり自然の摂理で排泄するのが通常のおしっこですが、同じおしっこでも意図的にあちこちに少量のおしっこをするのがマーキングで、この2つの排泄目的は大きく異なります。
前者の意図的な排泄に関しては、縄張り意識や他の犬に自分の存在を示すためにマーキングを繰り返すため、おしっこが微量、または全く出ないのにも関わらず、排尿ポーズを取ることもあります。
マーキング行為の意味
愛犬のオシッコには、性別や年齢、体の大きさ、健康状態、発情期か否かなどのさまざまな情報が含まれており、マーキング行為にはニオイ付けをして自分の存在をアピールするという理由があります。
マーキングの目的
オス犬や稀にメス犬がマーキング行為をする目的は、愛犬が自分の存在を アピールしたり、他の犬とおしっこの臭いで情報交換するコミュニケーションの一環であったり、自分の匂いを付けることで安心したりと、マーキングにはさまざまな意味が込められています。

マーキングの対象
マーキングは、いわば愛犬の名刺代わりのようなものです。そのため、電柱や草むらなど、どんなものでもマーキングの対象となり得ますが、特に室外でのマーキングが多いのが特徴です。
電柱や高い位置へのマーキング
愛犬が「自分は大きくて強い!」とアピールするときに見られるのが、電柱や木の幹、外壁などのより高い位置へのマーキングです。
片足を高く上げるだけでなく、自己主張が強い愛犬や去勢・去勢手術をしていない犬によっては逆立ちしてマーキングすることもありますが、逆立ちでのマーキングに関しては体の小さな小型犬に多くみられるといわれています。

散歩中のマーキング
電柱や木の幹はもちろん、他の家の外壁やプランター、草むらなどもマーキングの対象になり、オシッコをかけたがる犬は多いです。
特に他のワンちゃんのおしっこのニオイがする場所が対象になりやすく、反射的に自分のおしっこをかけてより自分の存在を強くアピールします。
このようなケースでは、本能的な行為ですので、犬の生物学上当たり前だということを前提に、愛犬の気持ちに寄り添って叱らないことが大切です。
自分の情報を伝えるマーキング
自分の情報を伝えるマーキングでは、低い高いに関わらずどんな場所でもマーキングの対象になります。
犬がマーキングする理由
犬のマーキングの目的は「排泄」ではなく「ニオイ付け」ですが、マーキングする理由はさまざまです。
ここでは、犬がマーキングする理由やマーキングの可能性を示す行動について解説します。

犬の心理とマーキング
愛犬にとってマーキング行為は本能的な行動ですが、状況によって心理は異なります。
テリトリー意識とマーキング
犬には縄張り意識があり、自分のテリトリーを主張するために自分のオシッコを排泄することでマーキングを行うことがあります。
マーキング理由で最も多いと考えられているのが、この縄張りを守るためのマーキングです。
しかし、論文によっては多くの猫のマーキング理由がテリトリー意識の強さによるものであるのに対し、犬においては他の犬に対しての情報伝達、オス犬に関してはマーキングによって性フェロモンを様々な場所に残すことにより、繁殖期にあることを他犬に伝達するケースが多いという意見もあります。
この理論から考えると、特に去勢をしていない犬に関してはマーキング頻度が多いのではないでしょうか。
参考論文|日鼻誌37(1): 1~4, 1998, 動物たちの嗅覚と行動
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrhi1982/37/1/37_1_1/_pdf/-char/ja

ストレスとマーキング
犬によっては、ストレスによってマーキングをすることもありますので、このケースにおいては特にストレス要因を取り除くことを第一に考え、犬の気持ちに寄り添ってマーキング防止の練習を行うことが大切です。
これは、自分のニオイを付けることで安心感を得られるためで、不安や恐怖、寂しさ、運動不足、環境の変化など、さまざまな原因が考えられます。
室内でマーキングをしてしまう場合ではストレスが理由であることが多いですが、泌尿器系の病気を患っている可能性もあるため、急にマーキングするようになったと言う場合では一度獣医師に相談することをおすすめします。
病気が原因の場合は、オシッコの匂いや色に変化が生じるケースが多いのが特徴です。
なお、犬の場合は室外でのマーキングが多いのに対し、論文によるとストレスによるマーキングに関しては、床や壁など、室内でのマーキング行為が多いケースにおいてストレスが原因になっていると捉えることができます。
室内マーキングだけでなく、噛む・破壊行為など、マーキング以外の問題行動がみられる場合は、ストレス対策を行う必要があります。
参考論文|工学院大学大学院 工学研究科建築学専攻博士後期課程, 家庭動物と共棲する住環境の建築技術とシステムに関する研究
https://www.kogakuin.ac.jp/faculty/graduate_school/t5eu690000018q2w-att/a1616479567744.pdf

自己主張としてのマーキング
オス犬もメス犬も犬は自己主張をするためにマーキングを行うケースがありますが、普段はマーキングしないメス犬が発情期であることをオス犬に知らせるためにマーキングを行うこともあります。
このメス犬のおしっこのニオイを嗅いだオス犬が、自分をアピールするために対象箇所にマーキングをすることもよく見られる行為です。
先述で、オス犬に関してはマーキングによって性フェロモ ンを様々な場所に残すことにより、繁殖期にあることを他犬に伝達するケースが多いことを説明させていただきましたが、稀にメス犬にも同様のことが起こります。
マーキングの可能性を示す行動
マーキングは犬の本能的な行動で、習慣化している場合では無理にやめさせるべきものではありませんが、臭いを嫌がる方が多いので、しっかりとオシッコに関してはマナーを守ることが基本です。
メリハリをつけることが大切で、マーキングの可能性を示す行動を知っておくことで対処しやすくなるでしょう。

行動の変化から見るマーキングの可能性
愛犬がマーキングをする前には予備動作が見られます。
予備動作は個体差があるため一概に「これをしたらマーキングする」と言うことはできませんが、対象物のニオイをクンクンと嗅ぎ、ソワソワしだしたらマーキングする可能性が高いでしょう。
また、他犬がマーキングした場所に上書きするケースが多いので、決まった臭いのする場所でマーキングする犬も多いのが特徴です。
愛犬の予備動作はどのようなものが見られるか、飼い主さんがよく観察することが大切です。

場所、時間、状況から見るマーキングの可能性
マーキングをする場所や時間、状況は犬によって異なります。トイレ以外でのオシッコが習慣化している場合では、いつ、どこで、どんな時にマーキングするかを確認しましょう。
なお、前述でご紹介させていただいたように、室内でのマーキング行為が多いケースにおいてストレスが原因になっているケースが多いので、マーキング対策の前にストレスケアを行うことが重要視されます。
室内でのマーキングの防止策
室内でマーキングをしてしまう場合、3つの原因が考えられます。
■犬が室内でマーキングする理由
①ストレス
②縄張り意識(テリトリー主張)によるもの
③加齢や病気
ストレスや加齢、病気によるものではそれぞれの原因に合わせて対処してあげることが大切ですが、縄張り意識(テリトリー主張)によるものでは、環境を整えてあげたりトレーニングを行うことでマーキングを減らすことができるでしょう。
マーキングをやめさせる方法
縄張り意識から室内でマーキング行為をしている場合、愛犬だけの場所(=縄張り)とトイレがしっかり区別できていないことが原因になっているケースが多いのが特徴です。
室内を完全フリーにして室内全部を愛犬の縄張りとするのではなく、犬が落ち着いて休めるハウスを用意して、ワンちゃんだけの場所を作ってあげましょう。
また、本来ワンちゃんは安全のために自分の寝床から離れた場所で排泄する習性があり、匂い対策も大変ですので、ハウスの中にトイレを用意するのではなく、トイレはトイレで場所を確保することが重要です。
さらに、マーキングしそうな対象物を置いておかない、マーキングの予備動作が見られたときは気を反らしたりハウスに入ってもらうなど、マーキングをしないサポートをすることも忘れないでくださいね。

適切なトイレトレーニング
外でトイレをさせている飼い主さんも多いと思いますが、病気や加齢、悪天候などでお散歩に行けない場合もあることを考え、基本的には室内でトイレができるようにしておきましょう。
トイレトレーニングは、排泄しやすいタイミングや排泄のサインが見られたらおやつなどを使ってトイレに誘導してください。
そして、トイレで排泄ができたら大げさなくらいにたくさん褒めてあげることがポイントです。ご自身で対処できない場合は、ドッグトレーナーへの相談も大切ですが、ドッグトレーナーを選ぶ時は飼い主さんが一緒に教えてもらえる(一緒にトレーニングに参加できる)ドッグトレーナーを選ぶことが大切です。
ドッグトレーナーに飼い主さんがトレーニング手順を教えてもらい、トレーニング場所と環境が異なる自宅を中心に、どんな場所でも飼い主さんが愛犬のオシッコのトレーニングができるようになることがポイントです。
マーキング行為は飼い主さんの悩みにもなりますが、犬の本能的行為であるケースが多いので、愛犬の気持ちに寄り添ってくれるトレーナーを選ぶことも大切です。
■排泄しやすいタイミングと排泄のサイン
【タイミング】
・寝起き
・食後
・運動後
・興奮したとき
【排泄のサイン】
・床のニオイを嗅いで歩く
・グルグル回る
・ソワソワしている
トイレに誘導しても排泄しなかった場合は、30分後に再度誘導してみましょう。
徐々におやつなしで誘導し、最終的には自分でトイレに行って排泄できるようになればトレーニング終了です。
失敗しても決して叱らず、無言で片付けることもトイレトレーニングの基本なので覚えておいてくださいね。マーキング行為は飼い主さんの悩みを大きくしてしまうケースがありますが、叱ってしまうと、愛犬は排泄することがいけないことだと思ってしまい、排泄を我慢して尿路系疾患を発症したり、隠れて排泄するようになってしまいます。
特に子犬の場合は、マーキングではなく粗相してしまうケースが多いのですが、子犬の粗相に関しては特に優しく時間をかけて教えてあげることが重要です。

マーキング後の掃除と消臭方法
愛犬が室内でマーキングしてしまったときは、トイレトレーニング同様に叱らず無言で片付けましょう。
室内でマーキングする理由がストレスであった場合、さらにストレスを与えてしまったり信頼を失ってしまうなど、マーキングを助長してしまうことにもなりかねません。
マーキングした場所の確認と消臭
どこにマーキングをしたか場所を確認し、ニオイが残っていると再びそこでマーキングしてしまうため、しっかり消臭してください。
犬の嗅覚は人よりも遥かに鋭いので、排泄専用のペット用スプレーでの消臭をおすすめします。
推奨される消臭アイテムの紹介
・プリジア for ペット
愛犬が舐めてしまったり、手足にかかっても安全な除菌消臭水です。
次亜塩素酸水のスプレーですが、細菌やウイルスに含まれるタンパク質を直接分解・消滅させ、最後は水に戻ります。
もちろん飼い主さんの手肌にも優しく、ワンちゃんのものだけなく人間のものなどにも使用できるので、普段使いできるおすすめ消臭アイテムです。
愛犬のマーキングの悩みがある飼い主さんは、試してみると良いでしょう。
散歩中のマーキングとマナー
お散歩中にマーキングしてしまう場合では、他の人の迷惑にならないようにマナーにも配慮が必要です。
ここでは、お散歩中にマーキングする理由とマナーとしての対処法を解説します。

散歩中にマーキングする理由
愛犬がお散歩中にマーキングをする場合、3つの理由が考えられます。
■犬が散歩中にマーキングする理由
①テリトリー主張
②自己主張
③コミュニケーションの一環として
いずれも本能的な行動ですが、ワンちゃんの気を反らしたりニオイを長く嗅がせないなど、マーキングをコントロールしてできるだけマーキングさせないようにすることが大切です。
マナーとしての対処法
それでは、マナーとしてどのように対処したら良いのでしょうか。
散歩時のマナー
まずは、お散歩の前に、家でトイレを済ませておきましょう。
また、マーキングをしてしまったときはその場所に水を流しますが、犬の嗅覚は鋭いので他犬のマーキングを誘発するリスク軽減はできません。
しかし、他人への配慮として非常に重要です。
室内でのマナー
自宅ではなく、ドッグカフェや宿泊施設、友人宅などを訪れる場合は、マナーパンツを着用させましょう。特に子犬の場合は、マーキングではなく粗相が多いので、外出先でのマナーパンツは必須です。


筆者プロフィール
■筆者 高田菜月(たかだ なつき)
2年間の愛犬(虹組)の介護中に老犬の飼育放棄の多さに驚愕。すべての犬猫が幸せで穏やかな時間を最期まですごしてもらうためにできることは何かを考え、飼い主さんのサポートや老犬・老猫のトータルケアができるサロンを開業するべく準備中。17歳のミニチュアダックスと16歳のチワックスと暮らす。
<保有資格>
・JKC愛犬飼育管理士
・ペットフーディスト
・ペット看護士
・ペットセラピスト
・トリマー・ペットスタイリスト
・ペットスタイリスト
・動物介護士

獣医師プロフィール
■獣医師 千葉恵(ちば めぐみ)
2012年に大学を卒業し、小動物臨床獣医師として従事。人と同様に、愛玩動物の高齢化が進んでいるため、治療の他に、体に負担が少ない治療も取り入れていくために日々励む。現在、獣医師として活躍しながら、東洋医学(主に鍼灸)を学んでいる。多くの犬や猫たちが幸せな時間を過ごせるように努めている。

筆者プロフィール
■記事執筆
犬の管理栄養士 望月紗季(もちづき さき)
一般社団法人愛玩動物健康管理協会の代表理事。犬の管理栄養士、犬の管理栄養士/アドバンス、愛玩動物救命士、犬猫行動アナリスト、ペット介護士、ドッグトレーニングアドバイザー、ドッグヘルスアドバイザーを中心に数多くのペット関連資格を保有。総合栄養食や流動食、アレルギー食や特定犬種の疾患に応じたペットフードの委託栄養設計や開発を行っております。